太陰暦の時代、春夏秋冬それぞれを6つに分けて24等分し、その区切りと区切られた期間の季節を表すために作られた二十四節気。七十二候はそれをさらに3つの項に細分して1年の移ろいを表したものです。些細な兆しからいつしか劇的な変化を遂げていく日本の四季の表情を、水城 ゆうがピアノで表現します。
寒露 かんろ
寒露とは、野の草に宿る冷たい露のことで、本格的な秋の始まりを伝えるものです。この七十二候は雁の飛来、菊の開花、キリギリスと、動植物の動きでこの季節を準えています。
初候の「鴻雁来(こうがんきたる)」は二十四節気「清明」の「鴻雁北(こうがんかえる)」と対になった候で、ツバメなどの夏鳥が南に帰るのと入れ違いに、春に北へ帰っていった冬鳥たちが再びやってくる時期という意味。その年に初めて訪れる雁を「初雁(はつかり)」、雁が渡って来る頃に吹く北風を「雁渡し」といい、秋の季語になっています。また、この風が吹き始めると海も空も蒼さが冴えてくるので「青北風(あおきた)」とも呼ばれています。
日本では虫の声は秋の風物詩、江戸時代にもこの時期に鳴く虫をカゴに入れて売る商売があったように、虫の音とともに秋の訪れを思い、過ぎ去った夏を愛おしむ風情を楽しんできました。
しかし、西洋では虫の声で季節を感じる、ということはないそうです。虫の声の認識には脳のメカニズムも関係していて、母音が重要な日本語では、自然の音や虫の声を言語のように左脳で捉え、子音が重要な欧米言語ではこれらの音は音楽・音として右脳で認識されるとのこと。なので、声とは認識されずにノイズとして処理されるというのです。四季のあり方や文化的背景だけでなく、そんな部分にも違いが生じていたのですね。
●●●●●
二十四節気「寒露」七十二候
寒露【初候】第四十九候・10月8日〜 鴻 雁 来 こうがん きたる
寒露【次候】第五十候・10月13日〜 菊 花 開 きくのはな ひらく
寒露【末候】第五十一候・10月18日〜 蟋蟀在戸 きりぎりす とにあり

イラスト:リンドウ(Gentiana scabra var.buergeri)=日本原産で本州、四国、九州に分布する多年草。古くから親しまれ、根や根茎は薬用に利用されていた。春に芽が伸びて細い葉をつけ、秋が深まった頃渦状に巻いた蕾をつける。晴天の秋空の下、筒状釣鐘型の風情ある青紫系の花が開く。
Piano: 水城雄
1957年、福井県生まれ。東京都国立市在住。作家、ピアニスト。音読療法協会ファウンダー、現代朗読協会主宰、韓氏意拳学会員、日本みつばち養蜂(羽根木みつばち部)。
20代後半から商業出版の世界で娯楽小説など数多くの本を書いてきたが、パソコン通信やインターネットの普及にともなって表現活動の場をネットに移行。さらに2001年にみずから現代朗読というコンテンポラリーアートを打ち立て、マインドフルネスと音楽瞑想の実践を深め、2007年にはNVC(=Nonviolent Communication/非暴力コミュニケーション)と出会い、表現活動の方向性が確定する。表現と共感、身体と感覚、マインドフルネスと瞑想の統合をめざし、いまこの瞬間のナマの生命のオリジナルな発露をテーマに表現活動と探求の場作りをおこなっている。
Illust: 朝生 ゆりこ (あそう・ゆりこ)
イラストレーター、グラフィックデザイナー。東京藝術大学美術学部油画科卒。雑誌、書籍のイラスト、挿画などを多く手がける。 https://y-aso.amebaownd.com