普段、私たちが当たり前に食べているお米ですが、その米づくりについては、田植えと稲刈りくらいしか知らないという方が多のではないでしょうか。そんな方たちに、米づくりに少しでも興味をもって持っていただこうと、ここでは、米作りの実際の作業の様子を、1年を通じてお伝えします。
レポートは、編集の仕事と農業を両立実践している『まなびジャパン』の編集スタッフでもある中澤浩明。彼は群馬県の高山村で、継承者がいず、手がつけられなくなった田んぼを借りて、小規模ですが無農薬・有機栽培で米づくりに取り組んでいます。
この記事で、お米への理解を少しでも深めていただければ幸甚です。
Photo & Text : 中澤浩明
キーワード: 無農薬・有機栽培 / 群馬県高山村 / 温湯消毒と田起こし・畦塗り
【米作り、1年間の作業行程】
5 水管理と雑草対策(6〜7月)
6 中干しから出穂(7〜8月)
7 稲刈り(10月)
8 稲刈り後の調整作業(10月)
薬剤を使わない消毒「温湯消毒」
前回、稲の種となる種籾を選別し良質な種籾を準備しましたが、次のステップは薬剤を使わない温湯消毒です。
稲を育てる課程で被害を及ぼす代表的な病気に、いもち病や紋枯(もんがれ)病などがありますが、これらは種子ついた病原となる菌が引き起こすとされています。そのため、被害を予防する措置として種子消毒を行います。
多くの場合、種子消毒は薬剤を利用して行いますが、「無農薬」なお湯を使った温湯消毒という方法を行っています。これは種籾を、60℃のお湯に10分間(または58℃に15分間)浸すというもので、病原菌の活動を抑え込む効果があります。もっと高い温度、たとえば80℃とかなら殺菌効果が高まるのでしょうが、そうすると種籾にもダメージが出てしまいます。温湯消毒は、薬剤を使った消毒と同じ程度の効果があるとのことで、最近はかなり普及しているようです。
温湯消毒は、近くの農協(JA)の施設を借りて行います。
温度管理とタイマー機能のついた大きな風呂桶のような水槽に、ネットに小分けした種籾を入れて浸します。もちろん、60℃で10分間という規定はきっちり守ります。そして、時間が来たならすぐに冷たい水に移して浸し温度を下げ、すぐに浸種(しんしゅ)させます。

浸種とは、種籾を発芽させるために必要な水分を吸収させるために水に浸けることで、積算温度が100〜120℃が目安とのこと。つまり10℃の水なら10〜12日間浸けておくのが理想のようです。しかし、「昔は井戸の水にずっと浸けておいた」という話も聞くので、冷たい水なら長く浸けておいても問題はないようです。
自分の場合はさまざまな都合から、8℃前後の水に20日間くらい浸けておきました。
種籾の準備とともに、田んぼの準備も始まります。まずは、田んぼに水を入れる前にトラクターで耕す田起こしです。
前年、稲刈りがすんだ田んぼは一度耕しておきます。これによって、田んぼに残ったワラなどをすき込んで分解させ有機質肥料としたり、雑草の種や芽が冬の寒さで枯れていくので、雑草対策にもなったりするとのこと。
でも、これらは米づくりに必ず必要な作業ではないので、稲刈り後は春までそのままの田んぼも多く見られます。

春の田起こしは、冬の間に乾いて硬くなった土を柔らかくほぐすとともに細かくして、水を入れたときにトロトロな状態にするために行います。このとき、自分は有機の鶏ふん肥料を少しまいておきすき込みます。
そして、田んぼに水を溜めるために重要な畦を塗り固めておきます。このあたりではこの作業を「クロ塗り」とも言っています。
畦は田んぼの縁の部分で、水漏れを防ぐために田んぼの地面より高く土で塗り固めておくもので、昔は人力でクワを使って行っていました。畦の部分に壁土を塗るようにクワでどろどろの土を塗りつけていく作業です。自分も人力でやったことがありますが、田んぼの全体の縁に土を塗りつけていくのはかなりつらい作業です。
しかし、今は便利な機械があります。トラクターの後部に取り付けられる畦塗り機です。


これはなかなか高価な機械なので、持っている人に頼んで畦塗りをしてもらいます。この機械を使うと人力の畦塗りよりもはるかにしっかりと頑丈な畦ができるので、田んぼの水を保つためには欠かせない作業です。
Photo & Text: 中澤浩明 (なかざわ・ひろあき)
群馬県高山村で雑誌&サイトなどの編集と農業を両立させる編集者。
ブログ『無農薬・有機でこめづくり』
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