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食と産物

眩しい光を海面に反射する熊野灘と分かれ、御浜町から紀和町(現熊野市紀和町)へ向う。霧が山から滝のように流れる「風伝おろし」と呼ぶ現象でも知られる風伝峠のトンネルを抜けると「丸山千枚田」の看板が立っている。そこから県道40号線を右折し3kmくらい行くと、道路から棚田 (千枚田)が見渡せる場所がある。ダイナミックですごい光景だ。(青柳健二)

Photo & Text : 青柳健二

キーワード: 白米千枚田 / 日本の棚田百選 / 丸山千枚田 / 三重県熊野市 / 白倉山 / 千枚田保存会

俯瞰ポイントもあり、棚田の美しさを満喫

白倉山(標高735m)の西向き斜面に広がっていて、棚田の標高は140m~290mに及び、斜面の平均勾配は4分の1、石積みの田んぼが100段以上連なっている。面積は7.2haあり、1340枚もの田んぼが、一望に見渡せるのは悪くない。

私たちのような旅行者は、いくら大きな面積の棚田であっても、俯瞰できる場所がないと、なかなか棚田らしさを実感することはできない。ここはそういう意味で、ちょうどいいところに俯瞰できるポイントがあって、棚田の美しさを満喫することができる。

また、高いところから林野、集落、棚田、谷川という日本の典型的な土地利用の様子が手に取るようにわかるのもすばらしい。

私がここを知ったのは1999年「日本の棚田百選」に選ばれてからだが、当時の地図を見ると、すでに「丸山千枚田」として観光地図にも載っているくらいで、「棚田」や「千枚田」が一般的に市民権を得る前から、やはり、この棚田の規模といい、美しさといい、特別な景観として、前から注目されていたのだと分かる。(同じ地図には、他に輪島市の「白米千枚田」も載っていた)

6月、9月、12月と、季節を変えて訪ねているが、どの季節もその時々の棚田の美しさを感じることができる。

9月中旬に訪れたときには、上部の棚田は一部刈り取りが終わっていた。下の方でもその日稲刈りをしているところがあった。石積みの畦の段差が影を作り、棚田特有の曲線が強調される光線だ。朝は棚田が立体的に見える時間帯といえる。

荒廃した田んぼの復田に取り組む

全景を撮り終わってから、谷を周り込んで、集落側に向かった。「千枚田」の看板が掛かっている村への下り道を入っていった。

休憩所の駐車スペースに車を置き、石積みの畔と黄金色に実った稲の写真を撮った。ところどころに彼岸花が咲いている。アニメのキャラクターなどを題材にした案山子も立っている。案山子といっても、鳥よけが目的ではなくて、まるでひとつの芸術作品のような凝った作りのものもある。

もっと低い場所に下りていくと、また休憩所があり、トイレや水車小屋などもあった。棚田条例を書いた看板、棚田の由来を説明する音声ガイドの機械も設置されている。さらに下には、不定期営業だが、食堂・宿泊施設の「いるか村千枚田荘」や、千枚田オートキャンプ場もある。

この千枚田が、いつ頃拓かれたのかはわかっていないが、慶長6年(1601)には、2240枚の棚田があったという記録があるそうだ。しかし平地の水田に比べて倍の労力がかかっても収穫は半分という生産性の低さに加えて、ここも高齢化や過疎化という時代の流れで棚田も耕作放棄が進み、1993年には530枚にまで減ってしまった。もはや「千枚田」ではなくなっていた。

しかしこれは先人から受け継いだ貴重な文化遺産であり、自分たちの代でこの遺産を無くすわけにはいかない、素晴らしい景観と農耕文化を後世に残さなければならないという意識が芽生え、同年「千枚田保存会」が発足し、翌年棚田の景観保全を目的に日本初となる「丸山千枚田条例」が制定された。その後4年の歳月をかけて荒廃した田んぼの復田に取り組み、810枚を復田し、「千枚田」にふさわしい1340枚のりっぱな棚田に再生した。

棚田の景観保全の先駆的な聖地

棚田の活動として、1996年には、棚田オーナー制度も開始された。春の田植え祭、秋の収穫祭などを通じて都市の人たちとの交流を深めるようになった。

そして、オーナー制度とは別に、昔ながらの農村風景を守っていくために、1口10000円で会員を募り、その協力金によって、千枚田の保存、維持管理をする「丸山千枚田を守る会」も1999年からスタートした。得点として丸山千枚田の新米2kgがもらえる。オーナー制度とは異なって、農作業などの仕事は必要ない。

2011年には農水省の「オーライ!ニッポン大賞」、2012年には、日本ユネスコ協会連盟の「プロジェクト未来遺産」に登録された。毎年夏には畔道に1300本余りの火が灯される「蛍火まつり」が開催される。2004年、熊野古道が世界遺産に認定されてから復活した農耕行事の虫送りが行われ、太鼓や松明をもった人々が棚田のあぜを練り歩く。

棚田をめぐっては、全国で様々な取り組みが行われている。棚田を保存するということは、棚田だけの問題ではないだろう。自然環境や日本人の今までの経済効率を重視してきた価値観が、変わりつつあることを感じさせる。

丸山千枚田は、日本初の棚田条例が制定されたところであり、棚田の景観保全の先駆的な聖地でもある。

Photo & Text: 青柳健二 (あおやぎ・けんじ)

写真家。日本やアジアの風景を撮り続ける。とくに現在は人間と自然がいっしょに
なって作り上げた田園風景を求めて全国各地を旅している。主な著書に「メコン川」
(NTT出版)、「棚田を歩けば」(福音館書店)など。

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【棚田を歩く】青柳健二 vol.12 丸山千枚田  三重県熊野市

[ 食と産物 ] 【棚田を歩く】青柳健二 vol.12 丸山千枚田  三重県熊野市

Photo & Text : 青柳健二

キーワード : 白米千枚田 / 日本の棚田百選 / 丸山千枚田 / 三重県熊野市 / 白倉山 / 千枚田保存会

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