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「ホットでクールなJ-ART」の第1回目。タイトルの「J-ART」とはもちろん「日本美術」のことだが、そこには海外から見たときの日本美術の独自性という意味も含まれている。ここではそうしたグローバルな視点から日本美術を見直していきたい。その第1回で採り上げるのが「ジャポニスム」だ。

Text : 村田 真

キーワード: アート / 芸術 / デザイン / ジャポニスム / 葛飾北斎 / 浮世絵 / 印象派 / ゴッホ / モネ

ジャポニスムとは、19世紀後半に日本美術からヒントを得た西洋の芸術家たちが作り上げた新しい創造活動のこと。とりわけ印象派やアールヌーヴォーの芸術家たちが、浮世絵に触発されて新たな表現を切り拓いたことはよく知られている。いま上野の国立西洋美術館で開かれている「北斎とジャポニスム」展は、浮世絵のなかでも葛飾北斎に焦点を当て、彼が西洋美術に与えた衝撃を振り返ろうという企画。なぜ北斎ひとりに絞ったのかというと、数え90年におよぶ生涯に3万点を超える浮世絵や版本を残したこと、その内容も人物画から動植物画、風景画、春画まで森羅万象におよんだこと、そしてなにより発想が豊かで描写に優れ、西洋人に高く評価されていたからだ。
展示は第1章の「北斎の浸透」以下、「北斎と人物」「北斎と動物」「北斎と植物」「北斎と風景」と続き、第6章「波と富士」で終わる構成。これまでの「ジャポニスム展」では、モネやゴッホなど影響を受けた美術品を並べるだけで、どの作品のどこから影響を受けたのか展示だけではわかりにくかった。ところが今回は影響を受けた作品の横に、影響を与えたとおぼしき北斎の作品(コピーも含めて)を並べているので一目瞭然なのだ。

では第1章から見ていこう……いや、別に順序どおりに見ていく必要はない。だいたい展覧会というのは最初のほうは熱心に見るので渋滞し、後に行くほど空くもの。しかも目玉作品ほど後のほうにあることが多いので、ようやくたどり着いたときには見る気も失せていたということが少なくない。とくに第1章は『北斎漫画』や『北斎画譜』とそれに関連する西洋の出版物を紹介する資料展示なので、研究者は別にして一般の人は後回しにするか、いっそ飛ばしてもかまわない。なにしろ今回の出品作品は計約330点にもおよび、しかも混雑が予想されるので重要作品を優先させたい。最近は主催者側も空いているところから見るように促している。
話がそれてしまった。第2章からお待ちかね印象派をはじめとする絵画が登場する。影響がわかりやすいのは、絵画や絵皿に北斎の絵柄が引用された例だ。たとえばアルフレッド・ステヴァンスの《公爵夫人(青いドレスの婦人)》は、よく見ると背景に富士山の屏風が描かれている。これは『北斎漫画』の図柄を屏風に仕立てたもので、当時の西洋社会の日本趣味をうかがわせる1点だ。また、北斎の図像をそのまま引き写した絵皿や食器も展示されているが、これらは陶器の工房でつくられた商品で、明らかにパクリ。当時もし著作権があったら北斎は大金持ちになっていたはずだ。

このように日本の美術品を描いたり絵柄を模倣するのはジャポニスムの初歩で、次の段階になると浮世絵独自の形態や色彩、構図などを作品に採り入れるようになる。いわば応用編だが、影響関係はわかりにくくなる。いい例が、メアリー・カサットの《青い肘掛け椅子に座る少女》。これのどこがジャポニスムなのか一見わからないが、その横に七福神を描いた『北斎漫画』が展示され、そのなかで袋を背にふんぞり返っている布袋のポーズが少女とよく似ているのだ。納得しつつ、可憐な少女とでっぷりした布袋との対比の意外さに頬がゆるむ。実際にカサットがこの布袋図を見たかどうかはわからないが、浮世絵には興味を抱いていたので、無意識のうちにヒントを得たのかもしれない。

ジョルジュ・スーラの《尖ったオック岬、グランカン》はもっと極端な例だ。三角形に尖った海岸の岩を描いた絵だが、その横に北斎の波頭図があって、これが笑ってしまうほどそっくりなのだ。いくら形が似ているとはいえ、固い岩と液体の波はまったくの別物。だが、どうやらスーラは北斎を参照していたらしく、この作品かどうかはともかく浮世絵からヒントを得ていたことは間違いなさそうだ。

さて、最後の章のタイトル「波と富士」は、いうまでもなく北斎の連作「冨嶽三十六景」を念頭に置いたネーミングだが、その末尾に展示されたセザンヌの《サント=ヴィクトワール山》の連作が最後の見どころになる。確かにセザンヌの描くサント=ヴィクトワール山はてっぺんが平らで、富士山と似ていなくもない。だが影響関係はそんなところにはなく、この南仏の山を「富嶽三十六景」のごとくさまざまな角度、距離から繰り返しシリーズで制作したことにある。印象派への浮世絵の影響は色や形や構図だけでなく、同じモチーフを何度も描く姿勢にも表れていたのだ。

この展覧会、「ジャポニスム」という枠を離れても、前述のスーラやセザンヌのほか、モネの《菊畑》、モローの《ヘラクレスとレルネのヒュドラ》など見ごたえのある作品が少なくない。質的にも量的にも満足のいく展覧会だった。付記すれば、ジャポニスムの代表的画家のひとりであるゴッホの作品が少なかったのは、近くの東京都美術館で同時開催中の「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」に持っていかれたからだろう。上野を訪れる際にはこちらの展覧会もあわせて見てほしい。

「北斎とジャポニスム  HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」
2018年1月28日まで 国立西洋美術館

Text: 村田 真 (むらた・まこと)

東京造形大学卒業。ぴあ編集部を経てフリーランスの美術ジャーナリストに。東京造形大学および慶應義塾大学非常勤講師、BankARTスクール校長を務める。おもな著書に『美術家になるには』(ぺりかん社)『アートのみかた』(BankART1929)など。

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【ホットでクールなJ-ART】村田 真  vol.01 北斎とジャポニスム

[ 芸術 ] 【ホットでクールなJ-ART】村田 真  vol.01 北斎とジャポニスム

Text : 村田 真

キーワード : アート / 芸術 / デザイン / ジャポニスム / 葛飾北斎 / 浮世絵 / 印象派 / ゴッホ / モネ

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